なろう作家の御代出実葉先生に関すること

御代出 実葉先生という、なろう作家の先生がおられます(2020年11月末現在、「小説家になろう」が活動範囲のようですので、そのように呼ばさせていただきます)。作品に「特許系エッセイ」といったものがあるため、弁理士ないしその周辺の知財関係に詳しい背景をお持ちであるという推測もあるようですが、よくわからないようにも思います。

6月27日が投稿日となっている「富岳の世界一速いスーパーコンピューターという表現は厳密には正しくない。正確には現時点にて世界一高速処理できるサーバーである。」という「作品」は、HPC界隈で大きな反響がありました。どのような反響であったかは、色々とわかりやすかったので富岳てるみ氏のツイートを引用しますが、


といったようなものでありました。

私がこれよりも以前に、御代出先生の「作品」が話題になっているのを見たのは、「ソ連の宇宙技術は最強過ぎたのだが、それを西側諸国が完全に理解したのはつい最近だった」でした。ツイッター検索などで見てみると、詳細などに審議が必要か、などというコメントが付いていることもあるものの、概ね、興味深い、といったような反応が多いようです。

しかし私は、2作目で早々に出てくる『ではソ連はどうやったかというと、角度を浅くし、大気圏内を何度もはじき返るような状態になることで減速する。』で「おかしい」と感じました。カプセル型宇宙船は、大気圏突入時に、その姿勢により揚力ないし「下向きの揚力」を発生するので、それを利用して突入角度を調整したり、月遷移軌道からのような高速度の場合には、いったんはじき返されてから再突入する、といったようなマニューバは、アポロ計画の時点で検討されており、いくつかは実施されてもいるはずだ、という記憶があったからです。確かめてみると、アポロ有人船の場合、大気圏を再離脱はしないものの、ゆるやかに波型を描いていったん高度をとることで、熱的な困難を緩和していましたし、世界でソ連だけが確立していた秘密の技術、などというものではありませんでした(興味があれば、詳しくは https://en.wikipedia.org/wiki/Boost-glide などから調べてみてください)。

思うに、御代出先生の「作品」は、散りばめてある多彩な話題やディティールに目を奪われがちのようですが(ツイッターの宇宙クラスタを見ていても、興味深い、という反応が結構ありました)、SF評論などでいう、いわゆる「大きなウソ」が、この再突入の事例のように「仕掛けて」あるものが多いのでは、というように感じます。