最速のエレベータの話
参考資料は、
- 作者: 梅田カズヒコ
- 出版社/メーカー: 戎光祥出版
- 発売日: 2008/06
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 47回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
参考資料の巻末の年表、p.142によれば、1931年のエンパイヤステートビルのエレベータの最高速度が分速360mだったとあり、おそらくそれがしばらくは世界最速だったのではないかと思われる。
参考資料p.143に速度日本一の推移という表がある。1961年の京都国際ホテルの分速210mから数年おきに更新され(そのうちに日本一=世界一になっていたと思われる)、1978年のサンシャイン60の分速600mがしばらく日本一(同時に世界一)であったため、昭和世代には最速のエレベータといえばサンシャイン、というイメージがあった人も多いと思われる。
これが更新されたのは1993年の横浜ランドマークタワーで、分速750mであった。この2者のエレベータはいずれも三菱電機製である(サンシャインのほうをメインに『プロジェクトX』にもなった http://nhk.jp/chronicle/?B10002200090406020030115 *1)。
どちらにも乗ってみたみたことがあるので、以下そのレビューのようなもの。サンシャインのほうには速度表示が付いているのでそれも見て観察してみると面白いが、どちらも普通のエレベータであればすぐ終わる加速感が、ぐぐっと強い加速感になった後しばらく続くのが特徴である(あたりまえだが)。乗客に不安感を与えないよう(鉄の箱というのはそれだけで不安感を与えるものである)、どちらのエレベータも揺れのような速度感は感じさせない。遊園地の絶叫マシンではない、というわけで、特にランドマークのほうは硬貨が倒れない程の安定性を誇っている(プロジェクトXによればサンシャインのほうも)。かすかに聞こえる風切り音の鋭さと、鼓膜が感じる気圧変動がその速度を伝えてくる。
ランドマークタワーより速いエレベータが登場したのは2004年の台北101で、東芝エレベータ製の分速1010mというエレベータが営業を開始した(ただしこの速度は昇りのみ)。
東芝エレベータによる紹介( http://www.toshiba-elevator.co.jp/elv/common/contents/products/newtechnology/co01b.jsp )にあるように、台北101のエレベータでは世界初の気圧制御が実用化されている。私が学生の頃、各社が研究しているという話を聞いたので(実際検索してみると他社の研究が出てくる)、今後の高速エレベータでは採用するものが増えると思われる。これは以下に簡単な図で説明するが、
これは上昇の場合で、右方向が時間、黒の曲線がカゴの上昇である。カゴはこのように加速度と減速度をもって動くわけだが、気圧制御なしの場合、青い線で示したようにカゴの速度にあわせて、移動のなかほどで急に気圧が変動することになる。これを、カゴ内の気圧を制御して、加速中や減速中に変動を分散させ、赤い線のように一定の気圧変動にするものである。
台北101により、世界最速エレベータのメーカが三菱から東芝に移ったわけだが、2014年完成予定の上海中心大廈に三菱が設置するエレベータが分速1080mで、奪還される見込みである。
以上のように、世界最速のエレベータのメーカの座は三菱と東芝が競争しているような状態にあるわけだが、日立製作所(日本最初の超高層ビルとされる霞が関ビルの、当時日本最速の分速300mのエレベータは日立製であり、サンシャインの前の世界最速である新宿住友ビル三井ビルの分速540mも日立であった*2)も、新しい研究塔で世界最速となるエレベータの実証実験を可能とすると発表するなど(2007年の時点では分速1300mとしていたが、完成時の発表では分速1080mとしている)、世界最速を狙っている模様であり、近い将来には三菱・東芝・日立のみつどもえとなるかもしれない。
(予想通り、2014年4月末、日立が世界最速となるエレベータ(中国広州「CTFファイナンシャルセンター」)の受注と、同機で採用されるいくつかの先進技術について発表し、「3つどもえ化」と報道されました)