『教養としてのプログラミング講座』と『入門 コンピュータ科学』と『はじめてUNIXで仕事をする人が読む本』

なんとなく相補的な関係にありそうな本がまとまって出た気がするのでちょっと書いてみる。
「ケンカ剣法」なる剣法がある。ちばてつやさんの漫画『おれは鉄兵』の主人公、上杉鉄兵の剣法で、正統じゃないんだけれども滅法強い、という。正統派というのは極めれば圧倒的に強いわけだけども、ケンカ流というのも侮れない、というのはわりとあることのように思う。元真剣師棋士花村元司を圧倒したという大山康晴の戦績がよく語られるけども、それはむしろ逆に、大山ほどの強さでなければ、圧倒できなかった、と言えるのではないだろうか。

というわけでこの本である。「ケンカ剣法」と言ってしまうのは失礼かもしれないが、まぁ次に紹介する本に比べれば「ケンカ剣法」の側に属すると言って良いのではないかと思う。細かい点でいろいろ言いたいところがあるのだが(バベッジのエピソードを紹介するのは良いけど「階差機関」と「解析機関」の識別をしっかりしてくれ、とか)、著者の清水さんと議論になったりするとあれこれと時間がかかるような気がして、そして清水さんは今、時間を無駄にできない立場におられるので、なかなか大変である。
続いては、
入門 コンピュータ科学 ITを支える技術と理論の基礎知識

入門 コンピュータ科学 ITを支える技術と理論の基礎知識

帯のアオリにあるようにコンピュータを専攻とする学科の学部生程度を対象とした教科書で、まぁ正統派な本ということになろう。いくらコンピュータが日進月歩の分野とはいえ、「科学」が付くような内容の初歩はそう変わるものではないのは、この本の表2カバーにある広告のひとつが『やさしいコンピュータ科学』ISBN:4756101585 という20年前に訳書が出て今も現役という本であることからもわかる。が、そうは言っても新しく広がった分野を取り入れる必要があり、限られた時間に収めるために以前の内容のどこを削るか、大学の教官は頭を悩ませている点であろう。ともかく、本書の、『やさしい~』に含まれない新しい内容の部分は新定番として間違いない、と思う。あと、本書が「大学の」教科書なのは、単に従来からある学術分野ではないためにそれまでの教育過程が無いだけで、高校生以下でも読める内容も多いと思う。
さて3冊目、
はじめてUNIXで仕事をする人が読む本

はじめてUNIXで仕事をする人が読む本

近年であればMacを個人ユースのパソコンとして持っていて、OS Xを使い倒している、であるとか、古くはSparcマシンやNeXTが学校に導入されたマシンだった、とかでUnixを使っている学生もいる(いた)ものの、そうではない学生もいたりするわけで、そのへんにUnixについて実践的に教育するための教科書、である(実践的ではなく、また教科書よりは読み物として書かれた本としては『UNIXという考え方』ISBN:4274064069 がある)。
ある時ある所で聞いた言葉で「コンピュータ科学の教育の目的は、root仕事ができる人間を養成することではない」というのがあって、そりゃ正論としてはそうなんだけど、研究や業務にUnixが有用なツールであることは確かでWindowsしか使えないようでは実際どうよ、って言われそうです(ツール類を動かすプラットフォームとか、海外のメーカーはあっさりLinuxにするところが、国内のメーカーはCygwinという傾向がある、という気がするがどんなものか)。
タイトルの「仕事」というのは、雑誌の4月号が「新人のための」特集を組むようなもので、そのへんを狙ったものと思うがJobに限らずOccupation(語義として、必ずしも雇用関係を意味しない) としてUnixを使う人、さらには趣味でPC-Unixを使っている人でも知識とスキルの補完のため(特に、システムの重要な部分を吹っ飛ばしてしまって主要コマンドですらロクに動かない状況で、シェルだけでなんとかする技、であるとか)、あるいは古い本の古くなってしまった内容や、近年のトピックが追加された本として、これも新定番と言っていいだろう。